「企業における自律的な安全衛生管理の進め方」中間報告書 はじめに  労働者の安全と健康を守ることは、戦後の労働基準行政の最重点項目のひとつとして 行政努力が傾注されてきたが、昭和36年に労働災害による死亡者数はピークに達した。 その後、高度経済成長期に入るとともに産業の質的な変革と労働者数の増加が進み、労 働災害は引き続き高水準で推移し、重篤な労働災害も発生するという状況が継続した。 このような状況を踏まえて、労働安全衛生法が昭和47年に制定され、新たな産業社会 における総合的な安全衛生確保のための施策が推進されてきた。  労働安全衛生法では、労働災害の防止のために、事業者が遵守すべき最低基準を設け るとともに、自主的な安全衛生管理の推進を図ってきた。しかしながら、第10次の労 働災害防止計画に記述されているように、社会経済情勢の変化の中で雇用の流動化、就 業形態の多様化等が進んでおり、今後の安全衛生管理の在り方について検討が求められ ている。  当検討会では、このような背景を踏まえ検討を行い、行政への提言をまとめたもので ある。 1 企業内の安全衛生上の問題点 (1) 職場におけるリスク*1の存在 ア 労働安全衛生法が制定され、以来30年同法に基づき総合的な労働災害防止対策 を展開してきているところであるが、今なお、労働災害による被災者数は年間約55 万人(労災保険新規受給者数)に達しており、そのうち休業4日以上の死傷者が 約13万人を占めている。また、死亡者数については、昭和36年の6,712人 を頂点として、労働安全衛生法が制定された昭和47年から4年間で半減に近い減 少を示し、その後漸減傾向にあったが、平成10年に2,000人の壁を破って以 降、着実に減少しつつある。しかし、今なお年間1,600人を超える労働者が労 働災害により死亡している。他方、一度に3人以上が被災する重大災害の件数は、 年間200件前後で推移しており、減少の傾向が認められず、最近では化学工業、 鉄鋼業等において重大災害が続発している。また、厚生労働省の調査では、労働災 害の発生につながるヒヤリハットを体験している労働者は、製造業では65%と多 く、機械設備の使用、作業内容、有害物の取扱い等の潜在的なリスクが作業場所に 依然として数多く存在していると考えられる。今後、労働災害を更に画期的に減少 させるためには、これらのリスクを低減していくことが必要である。 イ 労働衛生対策という観点では、平成14年度に脳血管疾患及び虚血性心疾患等で 317件が業務上と認定されるなど、現下の厳しい経済情勢において、業務の質的 ・量的な増大などによる心理的ストレスの増加や過重労働による健康障害の発生な どが新たな課題として注目され、その対策の重要性が増大してきている。このよう な職場に存在する作業関連疾患等に関連するリスク要因に対するリスクアセスメン ト等の必要性も指摘されている。 *1 リスク:労働災害の発生する確率とその災害の大きさを組み合わせることによって表す危険性の指標 ウ 化学物質等については、事業場で製造され、又は取り扱われる総数は約 55,000種類を数え、毎年新たに約500種類以上の化学物質等が職場に導入されてい る他、近年、我が国の生産現場が多品種少量生産型に移行していることなどに伴い、 化学物質等を取り扱う形態等も多様化するとともに、その種類も頻繁に変更される 傾向にある。このような状況の中で、有機溶剤中毒予防規則等の特別規則によって 規制されていない化学物質等による健康障害も後を絶たないこと等から、法令の遵 守を中心とした化学物質管理に加え、化学物質のリスクに応じた対応を企業が自律 的に進める必要性も指摘されている。 (2) 安全衛生のノウハウの継承が不十分であること等による影響  事業場では、安全衛生パトロール、ヒヤリハット報告、危険予知活動等の職場に 密着した自主的な労働災害の防止活動が進められてきている。しかしながら、この 自主的な活動がマンネリ化している懸念もあり、さらに、自主的な活動が安全衛生 担当者個人の知識、経験、意欲に負うところが少なくないという問題もあった。こ のため、労働災害が多発した時代を経験し、労働災害防止のノウハウを蓄積した者 が退職又は異動する際に、この安全衛生管理のノウハウが事業場内において十分継 承されないといった場合には、従来からの自主的な安全衛生活動の継続が困難とな るおそれがある。また、経営環境が厳しさを増す中で、安全衛生管理組織の縮小、 安全衛生関係業務以外の兼務の増大等が進展しており、安全衛生にあまり経験のな い者が担当する場合や安全衛生活動に充てる時間が減少する場合もあり、これによ り、事業場の安全衛生水準が低下し、労働災害の発生につながるのではないかとい う懸念が指摘されている。 (3) 企業の分社化等による影響  近年の社会経済情勢の変化により、分社化等の組織運営に関する構造的変化が増 大してきており、安全衛生管理体制もこの変化の影響を受けている可能性がある。  中央労働災害防止協会の「合併及び分社化にともなう事業場の安全衛生管理の実 態に関する調査研究委員会」の報告書(参考資料1)によると、 ア 分社化にともない、安全衛生担当者の人材不足や知識、経験が不足しているケ ースがあり、安全衛生活動のレベル低下が懸念されること イ 分社化された事業場、特に事業場の一部が分社化された場合には、安全衛生活 動において親会社の支援を受けるなど、親会社に大きく依存している割合が高い こと。また、安全衛生の責任が不明確になること ウ 合併した各事業場の安全衛生活動の内容や歴史、及び事業場間のレベル差があ る場合には、合併後の安全衛生活動が円滑に実施されず、安全衛生水準の低下の 懸念が生じること等の問題があることが指摘されている。 (4) 就業形態の変化、雇用の流動化による影響  労働分野においては、現在、業務請負の拡大、派遣労働者の増加等の就業形態の 多様化、産業構造の変化や労働者の就業意識の変化等による雇用の流動化が進んで いる。特に業務の外注化、企業の分割化等の進展により、同一作業場所における指 揮命令系統の異なる労働者の混在や発注者の施設設備等に係る業務の一括請負が増 加し、施設設備等の管理権原の所在と安全衛生管理責任の所在との間で実態上の「ず れ」が増大しており、これに対して、有効な安全衛生管理体制が取られていないの ではないかとの問題も指摘されている。  また、我が国では、従来、終身雇用制という雇用慣行の下で、経営者と労働者が ともに企業の発展を支えてきたといわれているが、経済情勢、雇用情勢の悪化とと もに、雇用の流動化、就業形態の多様化等が進み、特に若年者を中心として労働者 の企業への帰属意識が薄れてきている。 (5) 仕様規定による措置内容の固定化  労働安全衛生法令においては、危険有害要因を特定し、その要因による労働災害 を防止するための措置の実施を求める性能要件的な規定が大部分であるが、実施す べき措置を特定し、具体的な仕様等を詳細、一律に定めた規定も一部ある。法令で 画一的な措置が示されている現状は、事業者にとっては対応を容易にする効果があ る反面、事業者が行うべき措置内容の自由度が低く新技術の導入や工夫によってコ ストの低減化を図る余地が小さいことや、自律的に労働災害防止に取り組もうとす る意欲を弱めるとの指摘がなされている。 (6) 企業倫理の低下  昨今、企業における様々な不祥事が発生し、日本においても企業倫理について議 論される機会が多くなってきている。企業倫理に反した結果、社会的責任が厳しく 追及されたり、企業の経営そのものが破綻に追い込まれるケースも見られるところ である。  労働安全衛生の分野においても、ボイラー等の安全管理が優良であるとして、連 続運転の認定を受けた事業者がボイラー等の肉厚測定を実施せず、測定結果の虚偽 の記載を行い認定の取り消しを受けた事例もあり、企業倫理の低下が、事業場内の 安全衛生の確保にも影響を及ぼす懸念がある。 2 企業におけるリスク管理 (1) 企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)  企業の評価は単に一企業の評価に止まらず、企業の属する国及びその国民に対す る評価にまで影響を及ぼすことがある。企業の責任としては、利益をあげ、ステー クホルダーへ利益を還元する責任である「経済的責任」とともに、法令の遵守、企 業倫理の確立、社会的説明責任等の法的な規範に加え、社会的な規範を尊重する責 任である「社会的責任」がある。そのうち、企業の評価の大きな要因として、企業 が「社会的責任」を如何に果たしたかという点が重視される傾向にある。  企業の「社会的責任」が近年クローズアップされることとなった背景としては、「企 業活動のグローバル化」、「企業間の競争の激化」、「消費者等のステークホルダーの 意識の変化」、「欧米価値観の普及」が考えられる。  企業の社会的責任について、欧州ではこれを制度化し、基準を作るべきだという 議論が多くなされており、現在、第3世代企業社会的責任マネジメントシステム規 格が国際標準化機構(ISO)で議論されている。  また、米国では1987年に連邦量刑ガイドライン(組織に対するガイドライン は、1991年に施行)が定められ、効果的なコンプライアンスプログラムを採用 した企業については罰則を軽くし、採用しない企業については罰則を重くする仕組 みを導入した。  企業が安全衛生対策を自律的に行うよう促進するための措置等について検討する 際には、背景としてこのような企業の社会的責任の取組においてリスク管理が大き な要素であることについても留意する必要がある。 (2) 自律的な安全衛生管理における内外の動向 ア 諸外国の動向 (ア) 米国では、1982年より自主的予防プログラム(Voluntary Protection Program:VPP)と呼ばれる自主安全管理制度を導入している。この制度は、安全 衛生管理を自主的に行っていく意思を持ち、この旨を安全衛生庁(OSHA)へ申請 をした事業場に対して、書類審査と現場査察を行ったのち、VPP参加事業場とし て認定するものであり、認定の見返りとして定期監督の免除などのインセンテ ィブ措置が取られるといった制度である。このVPP参加事業場として、これまで に約900の事業場が認定されているところであるが、この認定については、 安全衛生管理制度が有効に機能しているかというシステム監査的な事項に加え て、過去3年間の災害と疾病の発生率が同じ産業の平均発生率を下回っている ことが要求されるなど、仕組みだけでなく実績評価の要素も有している点が特 徴である。 (イ) 企業におけるリスクアセスメントの手法を核とする自律的な安全衛生管理に 有効な一つの手法として、継続的、組織的なリスクアセスメント及びこれを踏 まえた改善を実施することができる労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS) がある。OSHMSは、「安全衛生管理のベテラン担当者の退職等に伴い、その安全 衛生に関する知識や労働災害防止に関するノウハウが継承されていない」等の 課題に対応し、特別の個人的能力に依存せず組織的、継続的な安全衛生管理活 動を段階的に向上させる仕組みである。このOSHMSについては、国際労働機関(l LO)や諸外国等において、それぞれ検討、導入等が進められてきたところであ り、ILOでは、2001年12月にガイドラインを公表したところである。(参 考資料2) (ウ) EUにおいては、1989年に「労働安全衛生の改善を促進する措置の導入に 関する欧州理事会指令」(EU労働安全衛生枠組み指令)が採択され、労働者の安 全と健康の改善を促進するための対策を導入すべきであるとの目的の下に、リ スクアセスメントの発想に基づく体制の構築を進めることとなった。このため、 EU加盟国においては国内の法制度等の整備を1992年末までに進めることと なった。(参考資料3) (エ) このような状況下において、英国では、1991年に安全衛生庁(HSE)が「成 功する安全衛生マネジメント(Successful health and safety management.HS G 65)」を定め、その後のOSHMSの原型となっている。さらに、EU労働安全衛生 枠組み指令を国内制度に導入するため、1992年にリスクアセスメントを基 本とする安全衛生管理規則を整備した。  その他のEU諸国においても、労働安全衛生枠組み指令に基づく制度の整備が 進められ、広くこの安全衛生管理の自律的な取組が推進されているところであ る。 イ 国内の動向  国内の自律的な安全衛生管理の取組として、厚生労働省でも1999年(平成 11年)3月に労働安全衛生規則を改正し、第24条の2として「自主的活動を 促進するため必要な指針を公表することができる」旨の規定を定め、これに基づ き、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針1を告示として公表し、事 業場への導入を進めているところである。  OSHMSの導入については、災害防止団体等を通じて現在進められてきており、そ の構築状況については、現在全国で数百単位の事業場でシステム構築済み、構築 中又は構築予定とされているところである。(参考資料4)さらに、OSHMSの導入 により労働災害が減少した実例がある。(参考資料5)  また、特定の分野におけるリスクアセスメントの考え方を導入したものとして、 「機械の包括的安全基準」(参考資料6)及び「化学物質管理指針」(参考資料7) がある。 3 労働安全衛生対策上の課題に対する考え方  事業者、労働者を取り巻く環境の変化により、労働安全衛生管理上いくかの課題 が生じており、さらに諸外国の動向を踏まえ、これらの課題について、以下のような 考え方を取ることが適当であると考えられる。 (1) 職場におけるリスクヘの対応の問題  重大な災害や新たな知見が現れるたびに規制の追加を行っているが、事業場内に 存在する全ての危険有害要因への具体的な対策を法規制により網羅することは難し い。現在でもなお、労働災害により年間1600人以上の死亡者数及び年間約55 万人の死傷者が発生しており、さらに過重労働等による健康障害の発生が新たな課 題と注目され、化学物質等による健康障害も後を絶たないことから、職場における リスクヘの対応が必要である。 <課題に関する考え方>  労働安全衛生法で定められた措置は、必要条件であって十分条件ではない。より 高い安全衛生水準を目指すための仕組みの導入により、年間約55万人が労働災害 で被災している現状を打破し、その着実な減少を図ることが必要である。  一方で、新しい機械設備や工法が導入されたり、毎年数百の新規化学物質が労働 の場に持ち込まれ、また危険有害要因が存在する事業場の実態もそれぞれ異なって いる等の現状を考えると、全ての危険有害要因を網羅し、その具体的な防止規定を 定める規制は現実的には難しい。  このため、事業者が危険有害要因の特定、リスクの評価及び実施事項の検討、計 画の策定、実施、評価、改善を組織的、継続的に行う自律的な安全衛生管理の仕組 みの導入の検討を進め、リスクの合理的かつ体系的な低減を通じて、安全衛生水準 の向上を図ることが効果的である。 (2) 安全衛生のノウハウの継承に関する問題  事業場では、労働災害防止のノウハウを蓄積したベテラン担当者の退職等に伴い、 安全衛生管理のノウハウが事業場において十分に継承されていないこと等により、 事業場の安全衛生水準の低下が懸念される。 <課題に関する考え方>  従来、安全衛生管理のベテラン担当者の知識、経験に基づいて、自主的な安全衛 生管理が推進されてきたが、社会経済情勢の変化により、企業の事業形態の変化、 安全衛生管理組織の縮小、就業形態の多様化等が進展し、従来通りの安全衛生管理 が困難になっている。したがって、事業場の安全衛生管理水準が特定の個人のノウ ハウに依存しない継続的、組織的な安全衛生管理のシステムの構築が必要である。 (3) 事業形態の変化による適用事業場の単位の問題  企業の分社化等が進展し、適用事業場の単位が実態に合わない場合がある。 <課題に関する考え方>  労働安全衛生法令においては、事業場ごとの労働者数で安全衛生管理体制等の規 制が異なっており、仮に500名の企業が50名未満の事業場から成る十数企業に 分社化された場合、労働安全衛生法において義務づけられている「50人以上規模 の事業場に選任義務のある安全管理者、衛生管理者、産業医」については選任義務 がなくなることになるが、このような事業形態の変化が安全衛生水準の低下に結び つかないよう、分社化後の実効ある安全衛生管理体制の在り方の検討が必要である。  さらに、分社化等、様々な企業再編が行われている状態を考えれば資本関係も安 全衛生に関する責任やリスク管理の単位になるべきであり、商法上の親会社、子会 社に該当する場合や連結決算のような考え方まで拡大し、「みなし同一事業場」のよ うな考え方の導入を検討する必要がある。 (4) 請負等に対する有効な安全衛生管理体制等の問題  就業形態の変化、業務の外部化等により指揮命令系統の異なる労働者の混在や発 注者の施設設備等に係る業務の一括請負に対して有効な安全衛生管理体制等が取ら れていない場合がある。 <課題に関する考え方>  就業形態の変化、業務の外注化等による指揮命令系統の異なる労働者の混在には、 仕事の一部を請け負っている業務請負のような場合、さらに混在は無いが発注者の 施設設備等に係る業務の一括請負があるが、このような労働現場において有効な安 全衛生管理体制を確立し、的確な労働災害防止対策を推進するために、施設設備等 の管理権原を有する者による下請労働者等をも含めた「場の管理」を講じさせるこ とについても検討が必要である。 (5) 仕様規定の規制による措置内容の固定化の問題  現行法令の措置義務の大部分は、所定の目的を達成するための措置を講じること を求める規定(性能基準)であるが、要求される仕様等を画一的に定めたもの(仕 様基準)も一部あり、事業者が講じなければならない措置の自由度が低い場合があ る。 〈課題に関する考え方>  要求される仕様等を詳細、一律に定めた規定も少なからずあり、措置内容の自由 度が低い状況では、コスト低減を目指した事業活動の展開が抑制され、事業者が自 らの事業場に合った安全衛生活動を行おうとする場合、その選択肢を制限するマイ ナス面がある場合もあることから、措置の自由度を拡大する必要がある。  さらに、仕様基準が技術革新の阻害要因になっていないかをチェックする必要が ある。 4 新たな安全衛生対策の在り方(提言)  3の考え方を踏まえ、労働者の安全と健康を確保するためには、次のような施策を 導入することの検討が必要である。 (1) リスクアセスメントを基軸とした自律的な安全衛生管理の導入等について ア リスクアセスメントを基軸とした自律的な安全衛生管理の導入  リスクの合理的かつ体系的な低減を通じて、安全衛生水準の向上を図るため、 事業者自らの安全衛生方針の表明及び労働者の意見を反映する仕組みの下で、危 険有害要因の特定、リスクの評価及び実施事項の検討、計画の策定、実施、評価、 改善の手順(PDCAサイクル)を組織的、継続的に行う自律的な安全衛生管理を実 現する有効な手法であるOSHMS等の導入促進の検討が必要である。特に、重大災害 の続発の原因が、ノウハウの伝承不足や施設設備の老朽化等にあるということが、 報道機関等から指摘されているが、危険有害な物を取り扱う業種に対して、OSHMS 等を早急に普及することについての検討が必要である。  また、機械の使用段階におけるリスクアセスメントを的確に行うためには、製 造段階でリスクアセスメントを実施し、リスクを低減した上で、残存リスクの情 報を機械の使用者に提供することが重要であり、「機械の包括的な安全基準」の実 効性をより高めるための方策の検討及び普及促進を図ることが必要である。  さらに、自律的な安全管理体制の核となる安全管理者の選任に当たって、研修 の修了を要件とすることについての検討が必要である。  なお、自律的な安全衛生管理の導入に際しては、以下のような事項について留 意が必要である。 (ア) 現行法令で規定されている管理者に加えて、事業場内の管理を円滑にするた め、社内のラインの長等、実際にラインの安全衛生管理に従事している中間管 理職の活用が必要であり、これらの者の教育についての充実が必要である。 (イ) 社内における内部監査制度や労働安全衛生コンサルタント、産業医等の専門 家、社外の安全衛生管理支援機関の活用等、実際の安全衛生管理のPDCAサ イクルが適切に機能しているかチェックする体制の整備等が必要である。 (ウ) 安全上のリスクに比して過重労働、メンタルヘルス及び化学物質による健康 障害等に関する労働衛生上のリスクは、現場の労働者が実感しにくい場合が多 く、専門家による個別の評価、関与が重要であることから、自律的な安全衛生 管理を推進するために専門家の育成等が必要である。 イ OSHMS導入促進策  OSHMSの導入の際には、人材の育成、文書化の推進等負担が大きいこと等、最初 のハードルが高いことから、OSHMSが適切に導入され、かつ、適切に運用されるこ とが企業経営においてメリットを得ることとなる仕組み、つまり企業に対する法 令上の措置に関するインセンティブ措置、公的調達の優遇措置等経済的なインセ ンティブ措置及び社会的な評価に関するインセンティブ措置の導入により、OSHMS の導入促進を図る仕組みの検討が必要である。 (2) 請負、分社化等に対応した新しい安全衛生管理体制の在り方について  製造業等の作業現場において、請負作業の増大等による労働災害の増加が懸念さ れることから、業務請負の実態及び労働者の混在や施設設備等に係る業務の一括請 負による労働災害の発生状況等の把握に努めるとともに、混在する労働者等の安全 衛生を確保するために、下請労働者等を含んだ施設設備に関する労働災害防止対策 について、施設設備等の管理権原を有する者を核としたr場の管理」に基づく統括 的な安全衛生管理を実現させる体制の仕組みづくりについて検討が必要である。  さらに、分社化の進展により安全衛生法の適用対象となる企業・事業場が分割さ れ、労働安全衛生法令において求める安全衛生管理体制の確立が不十分となり、安 全衛生水準が低下する等のおそれがあることから、その実態の把握を行い、分割前 の安全衛生水準を確保するために、分社化の際の安全衛生管理体制の在り方につい て検討が必要である。 (3) 有効な安全衛生管理対策を可能とする枠組みについて  要求される仕様等を画一的に定めた規定も一部あり、措置内容の自由度が低い場 合も見られることから、性能要件化の促進及び性能要件化に伴い必要とされるガイ ドライン、業界基準等を整備する仕組みの促進について検討が必要である。その際 には、安全衛生水準の低下を招かず、事業者の創意工夫を活かすことについて留意 する必要がある。