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マンガン又はその化合物(合金を含む。)による疾病の認定基準
 【基発第2号 昭和58年1月5日】
○マンガン又はその化合物(合金を含む。)による疾病の認定基準について

 マンガン又はその化合物(合金を含む。以下「マンガン等」という。)による疾病の業務上外の認定基準については、昭和38年5月6日付け基発第522号通達により示してきたが、その後の医学的知見等について「マンガンによる健康障害に関する専門家会議」において検討が行われ、その検討結果報告書が提出されたところである。今般、この報告書を参考として標記の認定基準を下記のとおり定めたので、今後の事務処理には遺憾のないよう万全を期されたい。
 なお、本通達の解説部分は認定基準の細目を示したものであるから、本文と一体のものとして取り扱われるべきものである。
 おって、本通達の施行に伴い、昭和38年5月6日付け基発第522号通達は、これを廃止する。



 マンガン等にばく露する業務に従事し、又は従事していた労働者に発生した次の1又は2のいずれかに該当する疾病であって、医学上療養を必要とすると認められるものは、労働基準法施行規則別表第1の2第4号1の規定に基づく昭和53年労働省告示第36号の表に掲げる「マンガン及びその化合物」による疾病として取り扱うこと。

 精神・神経症状を示す疾病であって、次の(1)、(2)及び(3)のいずれの要件をも満たすもの。
(1)  相当の濃度のマンガン等を含む粉じん、ヒューム等にばく露する業務に一定期間にわたり従事し、又は従事したことのある労働者に発生したものであること。
(2)  初期には神経衰弱様の症状などが現われ、その後錐体外路症候(パーキンソン症候群様症状)を中核とした多彩な精神症状が、進行性に出現してくるものであること。
(3)  上記の症状及び症候がマンガン等以外の原因によって発症したものでないと判断されるものであること。

 肺炎であって、次の(1)及び(2)のいずれの要件をも満たすもの。
(1)  高濃度のマンガン等を含む粉じん、ヒューム等にばく露する業務に従事中又は当該業務を離れた後、比較的短期間に発症した急性肺炎であること。
(2)  上記の肺炎がマンガン等以外の原因によって発症したものでないと判断されるものであること。
 
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解 説

 マンガン等にばく露する主な業務
 マンガン等にばく露する主な業務としては、マンガン鉱の採掘、マンガンの精錬、フェロマンガンの製造、乾電池の製造、溶接棒の製造、マンガン化合物の製造等がある。

 作業環境におけるマンガンの濃度
(1)  本文記の1の(1)の「相当の濃度」とは、マンガン(Mn)としておおむね 5mg/u 以上の濃度をいう。ただし、ヒュームについては、これ以下の濃度でも発症することを示唆する報告がある。
(2)  本文記の2の(1)の「高濃度」とは、前記(1)の「相当の濃度」を著しく上回る濃度(おおむね数倍以上)をいう。

 ばく露期間と発症の時期
 マンガン等による精神・神経症状を示す疾病は、1ヵ月程度から十数年以上のばく露期間で発症する例があるが、1〜2年での発症が多い。また、発症の時期については、ばく露中又はばく露離脱後間もなく発症する例がほとんどであるが、まれにはばく露離脱後10年以上経過して症状が顕在化したという事例もある。

 精神・神経症状
(1)  初期の症状
 神経衰弱様症状としては、全身倦怠感、易疲労感と意欲の乏しさを主徴とし、若年者にも性欲の低下を訴える者がいる。また、ねむけ、記銘・記憶障害、時には頑固な不眠、さらには食思不振や動作緩慢、つまずき易さを来たすこともある。
 時には精神病的症状として、精神興奮状態がみられ高揚気分、多弁等そう的状態が出現し、時に攻撃的となり、暴力行為もみられ、衝動行為や目的の不明な行動も現われる。まれに幻覚や妄想が出現する。また、うつ状態や無気力、無為となる例もみられる。
 しかしながら、これら初期の精神・神経症状の軽度のものは時に看過されることがある。
(2)  中間期及び確立期の症状
 精神症状
 中間期には、初期の症状の増強に加え、客観的精神症状が明らかになる。最も多いのは、強迫笑又は強迫泣であり、一般に、誘因がなくて唐突に起こる。
 記銘・記憶障害は、中間期の初めに出現することがあるが、重症化することはない。また、確立期の精神症状としては、精神病的症状は消退し、残遺症状として無気力、多幸、軽度の知能低下、強迫笑、強迫泣のほか、無関心、意欲減退などが残る。
 神経症状
 中間期及び確立期では、神経症状が次第に明確になる。この神経症状は、錐体外路症候、錐体路症候、小脳症候、末梢神経症候、自律神経症候等に分けられ、その現われ方は複雑であるが、錐体外路症候、錐体路症候及び小脳症候が重要である。これらの組合わせにより、(イ)錐体外路症候が主体のもの、(ロ)錐体外路症候に錐体路症候を伴うもの、並びに(ハ)錐体外路症候、錐体路症候及び小脳症候の3つの症状を伴うものに分けられ、その発現頻度は(イ)が最も高く、次いで(ロ)、(ハ)の順である。
 主な神経症状を症候別に区分するとおおむね次のとおりである。
 錐体外路症候: 寡動、筋緊張亢進、仮面様顔貌、振戦、歩行障害、後方突進、側方突進(前方突進はあまりみられない。)、言語障害、書字拙劣、小書症等のパーキンソン症候群様症状、痙性斜頸
 錐体路症候  : 腱反射亢進、バビンスキー反射陽性、歩行障害、言語障害
 小脳症候   : 変換運動障害、運動失調
 末梢神経症候: 複視、筋萎縮、遠位部知覚障害
 自律神経症候: 発汗亢進、流涎、膏顔
(3)  症状出現の特徴
 マンガン等による精神・神経症状を示す疾病は、上記(1)及び(2)のとおり多岐にわたっており、その症状の組合わせは症例によって種々であるので、十分留意すること。
(4)  認定に当たっての留意事項
  初期症状のみが認められるものについては、直ちにこれを業務上として認定することは困難である。
 その理由は、当該症状とマンガン等以外の原因による神経症様症状等の鑑別は難しく、この段階で確定診断を下すことは困難であるからである。しかしながら、臨床症状が明らかなものであって血液、尿、糞便、頭髪、胸毛又は髄液中のマンガン量の明らかな増加が認められる場合及び Ca-EDTA の点滴静注によって尿中のマンガン排泄量の異常な増加が認められる場合には本文記の1の(2)及び(3)に該当するものとして取り扱って差し支えない。この場合、原子吸光分析法を用いる等医学的に適正と認められる検査方法によって行われることが必要である。
 初期の精神・神経症状は、上記(1)のごとく時に看過されることがあるが、その後の症状の進行によって錐体外路症候(パーキンソン症候群様症状)を中核とした多彩な神経症状の出現が認められる場合には、本文記の1の(2)に該当するものとして取り扱って差し支えない。
 マンガン中毒の初期には、マンガン等にばく露する業務から離れると症状が軽快することが多くみられるが、これは鑑別に当たって重要な所見となる。
(5)  類似の症状を示す疾病
 上記(1)及び(2)の疾病と類似の症状を呈することがあるため、鑑別に留意すべきである疾病としては、おおむね次のようなものがある。
 イ 脳血管障害
 ロ パーキンソン病
 ハ 一酸化炭素中毒後遺症
 二 脳炎及び脳炎後遺症
 ホ 多発性硬化症
 ヘ ウイルソン病
 卜 脊髄小脳変性症
 チ 脳梅毒
 リ ギラン・バレー症候群及び原因の明らかな末梢神経炎

 その他
 マンガン等を含む粉じんにばく露するマンガン鉱の採鉱、粉砕等の作業に従事する労働者に発症したじん肺症等については、労働基準法施行規則別表第1の2第5号に該当するものとして処理すること。
 
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