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アルキル水銀化合物による疾病の認定基準
 【昭和51年8月23日 基発第602号】
○アルキル水銀化合物による疾病の認定基準

 標記の「アルキル水銀化合物」に因る中毒の業務上外の認定については、下記の1又は2に掲げる要件を満たし、医学上療養が必要であると認められる疾病は労働基準法施行規則別表第1の2第4号の規定に基づく労働省告示第36号表中に掲げるアルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基であるものに限る。)による疾病に該当するものとして取り扱うこととされたい。
 なお、この通達の基準により難い事案については、関係資料を添えて本省にりん伺されたい。
 おって、この通達の解説部分は、認定基準の細目を定めたものであり本文と一体化して取り扱われるものである。



 アルキル水銀化合物にさらされる業務に従事しているか、又は従事した労働者に発生した疾病であって、次の(1)及び(2)のいずれにも該当するものであること。
(1)  アルキル水銀化合物のガス、蒸気又は粉じんに繰り返しさらされる業務に数週間以上従事しているか、又はその業務から離れた後おおむね6ヵ月未満の間に発生した疾病であること。
(2)  次のイの(イ)又は(ロ)の自覚症状に加えてロからへまでのいずれかに該当する症状が認められるものであること。
 常時又は繰り返し訴えられる次の自覚症状
(イ)  四肢末端優位のしびれ感又は口囲のしびれ感((両方同時に存在することもある。)
(ロ)  上記(イ)に伴う「歩きにくい」「言葉がもつれる」「目が見えにくい」「耳が聞こえにくい」のうちいずれかの症状(まれには(イ)を伴わずに(ロ)のみがみられることがある。)
 求心性視野狭窄
 四肢末端、口囲に著明な表在又は深部感覚低下
 次に掲げる運動失調ないし平衡障害
 歩行失調 指‐指試験、指‐鼻試験もしくは膝‐踵試験における異常
 アデイアドコキネシス(拮抗運動反復不能症)ロンベルグ症候
 構語障害(断綴性言語など)
 聴力障害
 なお、上記(1)の要件を満たさない場合又は(2)の症状の発生に関し、アルキル水銀化合物以外の原因による疑いがあって鑑別困難な場合には、症状が当該物質にばく露する業務に従事した後に発症したか否か、作業の経過とともに、又は当該物質へのばく露の程度(気中濃度、ばく露時間、ばく露時の作業態様等)により症状が増悪したか否か、同一職場で同一作業を行う労働者に同様の症状の発生をみたか否か等を検討のうえ業務起因性を判断すること。

 業務により高濃度のアルキル水銀化合物のガス、蒸気又は粉じんにばく露して犯躁状態、痙攣のような精神神経症状を呈したものもしくは局所的に高濃度ばく露をうけて皮膚又は粘膜の局所刺激症状を呈したもの。
 
(解説)

 慢性中毒について
 本文記の1は、アルキル水銀化合物への長期低濃度ばく露による中毒について業務起因性の判断要件を示したものである。
(1)  アルキル水銀化合物のガス、蒸気又は粉じんに繰り返しさらされる業務に数週間以上従事した者にかかる中毒(以下「慢性中毒」という。)の発症時の測定では、血液及び頭髪中の水銀量は通常次の値を超えるものである。
  血液中の水銀量 0.2μg/ml
  頭髪中の水銀量 5.0μg/g
 なお、頭髪中の水銀量については、測定時に水銀化合物の外部付着のあることがあるのでその評価には注意を要する。
(2)  自覚症状としては、記の1‐(2)‐イに掲げるものに伴って、頭重、頭痛、めまい、不眠、もの忘れ、不安感等を訴えることがある。
(3)  記の1‐(2)‐イ‐(イ)の四肢末端優位のしびれ感とは、しびれ感が四肢末端部により著明なものをいう。
 四肢又は口囲のしびれ感は、アルキル水銀化合物による場合は左右の上下肢、又は口囲の左右両側に症状を呈するものであり、片側のみに症状を呈することはない(ただし、左右両側のしびれ感の強さに差が生じることがある。)。片側のみに症状が現われる場合は、脳血管障害、脳腫瘍等アルキル水銀化合物以外の原因による疾病が疑われる。
(4)  記の1‐(2)‐ロの求心性視野狭窄については、原則として眼科の専門医がゴールドマン視野計を用いて測定し評価することが望ましい。
(5)  記の1‐(2)‐ホの構語障害(断綴性言語など)は、小脳性の言語障害である。
(6)  記の1‐(2)‐ヘの聴力障害は、原則として中枢神経障害に属するものである。

 急性中毒について
 本文記の2は、アルキル水銀化合物への短期間高濃度ばく露による中毒について業務起因性の判断要件を示したものである。
 しかし、急性中毒でも経過の遷延する場合は、記の1‐(2)のイからへまでの慢性中毒の症状が認められることがある。


 その他
 末梢神経障害の他覚的所見を得るためには、末梢神経最大伝導速度、筋電図等が、中枢神経障害の他覚的所見を得るためには、脳波検査等が参考となる。

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