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クロム又はその化合物(合金を含む。)による疾病の認定基準
 【基発第646号 昭和59年12月4日】
○クロム又はその化合物(合金を含む。)による疾病の認定基準について

 クロム又はその化合物(合金を含む。以下「クロム化合物等」という。)による疾病の認定基準については、昭和51年1月31日付け基発第124号通達により示したところであるが、その後「クロム障害に関する専門家会議」において医学的検討が行われ、今般、その検討結果報告書が提出されたことに伴い、これを参考として標記の認定基準を下記のとおり改めたので、今後の事務処理に遺憾のないよう万全を期されたい。
 なお、本通達の解説部分は認定基準の細目を示したものであるから、本文と一体のものとして取り扱われるべきものである。
 また、本通達の施行に伴い、昭和51年1月31日付け基発第124号通達は、これを廃止する。



1 がんについて
(1)  クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務に従事した労働者に発生した肺がん又は上気道のがん
 クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務に従事した労働者に発生した肺又は上気道のがんであって、次のイ及びロのいずれにも該当するものは、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)別表第1の2第7号14に該当する疾病として取り扱うこと。
 クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務への従事歴が4年以上である者に発生した疾病であること。
 原発性の肺又は上気道のがんであること。
(2)  亜鉛黄(あえんき)又は黄鉛を製造する工程における業務に従事した労働者に発生した肺がん
 亜鉛黄又は黄鉛を製造する工程における業務に従事した労働者に発生した肺がんであって、次のイ及びロのいずれにも該当するものは、労働基準法施行規則別表第1の2第8号に基づき労働大臣の指定する疾病を定める告示(昭和56年労働省告示第7号)第2号に該当する疾病として取り扱うこととするが、当該肺がんについては、クロム化合物等のばく露を受ける業務との関連について専門的検討を加える必要があるので、当分の間、次のイ及びロに該当するか否かを問わず、関係資料を添えて本省にりん伺すること。
 亜鉛黄又は黄鉛を製造する工程における業務に従事することにより相当程度のクロム化合物のばく露を受けた労働者に発生した疾病であること。
 原発性の肺がんであること。

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2 がん以外の疾病について
 クロム化合物等のばく露を受ける業務に従事した労働者に発生した次に掲げる疾病であって、医学上療養を必要とし、かつ、それらが当該業務以外の原因によるものではないと判断されるものについては、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の規定に基づき労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに労働大臣が定める疾病を定める告示(昭和53年労働省告示第36号)表中に掲げるクロム及びその化合物による疾病として取り扱うこと。
(1)  皮膚障害
 ー次刺激性接触皮膚炎
 感作性(アレルギー性)接触皮膚炎
(2)  気道障害
 急性の呼吸器疾患
 鼻炎、鼻粘膜の潰瘍、副鼻腔炎その他の鼻の疾患
 慢性咽頭炎、慢性喉頭炎、慢性気管支炎等の呼吸器疾患
 アレルギー性喘息
(3)  前眼部障害
(4)  口腔粘膜障害
(5)  腎障害等の急性中毒
 
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解説

1 がんについて
(1)  クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務に従事した労働者に発生した肺がん又は上気道のがん
 「クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程」とは、作業環境の著しい改善(良好な作業環境における新規の操業を含む。以下同じ。)がなされるよりも以前のばく露条件下にある工程と同程度のばく露条件下にある工程を指すものである。従って、作業環境の著しい改善がなされた後の工程における業務に初めて従事し始めた労働者の肺がん又は上気道のがんについては、クロム化合物等のばく露を受ける業務との関連について専門的検討を加える必要があるので、関係資料を添えて本省にりん伺すること。
 原発性の肺がんとは、肺、気管又は気管支に原発したがんをいい(記の1の(2)において同じ。)、原発性の上気道のがんとは、鼻腔、副鼻腔、鼻咽腔又は喉頭に原発したがんをいうものである。
(2)  亜鉛黄又は黄鉛を製造する工程における業務に従事した労働者の肺がん
 亜鉛黄又は黄鉛を製造する工程における業務に従事した労働者の肺がんの認定に当たっては、昭和59年11月13日付け基発第610号「労働基準法施行規則の規定に基づき労働大臣の指定する疾病を定める告示の一部改正について」を参考とすること。
(3)  その他
 クロム化合物等のばく露を受ける業務に従事した労働者に発生したがんのうち、記の1の(1)に該当し、業務起因性があると判断されたがん以外のがんについては、当分の間、クロム化合物等のばく露を受ける業務との関連について専門的検討を加える必要があるので、関係資料を添えて本省にりん伺すること。

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2 がん以外の疾病について
(1)  一般的留意事項
 がん以外の疾病の業務起因性の判断に当たっては、作業の内容及び方法、クロム化合物等へのばく露濃度及びばく露期間等を把握の上、当該疾病の発症との関連について検討することが必要である。
 がん以外の疾病のうち業務起因性の判断が困難である事案については、関係資料を添えて本省にりん伺すること。
(2)  皮膚障害
 クロム化合物等による皮膚障害は、クロム酸塩又は重クロム酸塩の製造作業、建設業におけるクロム化合物等を含有するセメントの取扱い作業、クロムメッキ作業、クロム化合物等を用いて行う革なめし作業、クロム化合物等を含有するインクを用いて行う印刷作業等に従事する労働者にその発生がみられる。
 クロム化合物等のうち、水溶性で強い酸化剤であるクロム酸、クロム酸塩又は重クロム酸塩は、強い刺激性があり、一次刺激性接触皮膚炎を生ずることがある。
 一次刺激性接触皮膚炎は、手指、前腕等に好発し、下肢等にもみられることがある。発赤、丘疹等の炎症症状を呈し、掻痒感が強く、しばしば湿疹化する。
 微細な掻痕、擦過傷等のある皮膚にクロム化合物等が作用すると皮膚潰瘍を生じやすい。これは、直径数ミリメートルの辺縁が隆起し、中心部が窪んだ小
円形潰瘍(クロムホール)で、手指背等に好発する。
 感作性(アレルギー性)接触皮膚炎については、クロム化合物等の職業的ばく露のほかに、一般社会生活における皮革製品、顔料、洗剤等に含まれるクロム化合物等又はニッケルその他の金属若しくはその化合物(合金を含む。)による感作の機会が多いことに留意する必要がある。また、皮膚パッチテストにより鑑別を行う場合には、試験薬品の適用条件及び検査結果の評価に慎重を要する。
(3)  気道障害
 急性の呼吸器疾患は、クロム酸のミストの一時的な大量吸入によって生ずることがあり、鼻粘膜の充血から下部気道まで広汎な障害を起こし得ることが知られている。
 クロム化合物等の鼻粘膜に対する影響には、刺激作用と腐蝕作用とがあり、クロム化合物等のばく露を受ける業務に従事し始めた初期においては、くしゃみ発作、鼻閉及び水様鼻漏を生ずることが多い。次いで、鼻出血、痂皮等がみられ、しばしば鼻中隔穿孔を生ずる。また、慢性副鼻腔炎の併発をみることもある。
 慢性咽頭炎、慢性喉頭炎、慢性気管支炎等の呼吸器疾患は、クロム酸塩又は重クロム酸塩の製造作業、クロムメッキ作業等のクロム化合物等のばく露を受ける作業に長期間従事する労働者にその発生がみられることがある。
 これらの呼吸器疾患はクロム化合物等以外の原因によって起こることが多いので、同種の作業に従事する労働者に同様の呼吸器疾患の発生がみられているか否か等についても参考とすること。
 アレルギー性喘息は、クロム化合物等を含有するインクを用いて行う印刷作業、クロムメッキ作業、クロムメッキ製品の研磨作業、クロム色素スプレー塗装作業、クロム化合物等を含有するセメントのばく露を受ける作業等に従事する労働者にその発生がみられることがある。
 クロム化合物等によるアレルギー性喘息は、一般的にはクロム化合物等へのばく露を中止した後に症状が軽快するので、このような経過にあるかどうかを確認すること。更に必要な場合には、次の方法により鑑別を行うこと。
(イ)  患者の同意を得て吸入誘発試験を行うこと。ただし、この試験には危険が伴うので、必ず専門医によって行われる必要があること。
(ロ)  パッチテスト等皮膚試験を行うこと。
(4)  前眼部障害
 前眼部障害としては、一次刺激性のものがほとんどで、結膜又は角膜の炎症又は潰瘍である。クロム化合物等の長期間ばく露により慢性結膜炎を生ずることがある。
(5)  口腔粘膜障害
 口腔粘膜障害としては、歯根炎、歯根膜周囲炎等がある。
 これらの障害は、相当程度の濃度のクロム化合物等のばく露を受けることによって生ずることがある。
(6)  腎障害等の急性中毒
 クロム化合物等の経口摂取又は高温のクロム化合物溶液への接触によって生ずる熱傷等に伴う経皮吸収によって急性中毒を生ずることがある。これらのぱく露形態による急性中毒は、腎障害(尿細管障害)を主たる障害とする重症中毒の病像を呈し、消化管症状、肝障害等を伴うことがあり、死亡することもある。
(7)  その他の疾病
 記の2に掲げる疾病以外の疾病のうち、肝障害(記の2の(5)に掲げる急性中毒において生じた肝障害を除く。以下同じ。)、肺気腫、肺線維症及び胃腸障害については、クロム化合物等のぱく露を受ける業務との関連が必ずしも明らかではない。
 なお、肝障害については、クロムメッキ作業においてクロム化合物等以外の化学物質、例えば、ある種の有機溶剤のぱく露を受けることによっても生じ得るものであり、また肺気腫については、クロム酸塩製造作業等における長期間高濃度の粉じん吸入によって生ずる可能性がある。
 また、肺線維症に関しては、粉じんのぱく露によるじん肺症であるか否かについても留意すること。

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