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脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等
 【基労補発第31号 平成13年12月12日】
○脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について

 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)の認定基準については、平成13年12月12日付け基発第1063号(以下「1063号通達」という。)をもって改正されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記事項に留意されたい。
 なお、本事務連絡の施行に伴い、平成7年2月1日付け事務連絡第5号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」及び平成8年1月22日付け事務連絡第3号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の一部改正の留意点について」は廃止する。
 おって、1063号通達のより正確な理解のため、脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書を活用するものとする。

 目次
  第1 認定基準改正の経緯
  第2 主な改正点
    1 対象疾病長期間にわたる疲労の蓄積3 負荷要因の明確化
  第3 運用上の留意点
 
   1 対象疾病について2 異常な出来事について3 短期間の過重業務について
    4 長期間の過重業務について5 リスクファクターの評価




第1 認定基準改正の経緯
 脳・心臓疾患に係る労災認定については、平成7年2月1日付け基発第38号(以下「38号通達」という。)及び平成8年1月22目付け基発第30号により示された認定基準に基づき、適正な運用を図ってきたところである。
 このような中、平成12年7月17目、最高裁判所は、自動車運転者に係る行政事件訴訟の判決において、業務の過重性の評価に当たり、相当長期間にわたる業務による負荷や具体的な就労態様による影響を考慮する考えを示した。
 この判決を契機として、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」を設け、長期間にわたる疲労の蓄積の評価や業務の過重性の評価要因の具体化等を検討課題とし、主に医学面からの検討が行われてきたところである。
 今般、その検討結果を踏まえ、業務による明らかな過重負荷として、長期間にわたる疲労の蓄積を評価の対象とするほか、具体的な負荷要因を明示することとし、1063号通津により、認定基準の改正が行われたものである。

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第2 主な改正点
 対象疾病
 現在、死亡診断書等には、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回修正」(IDC-10)に準拠した疾患名が一般的に使用されていることから、認定基準に掲げる対象疾病について、これに基づく疾患名で整理したこと。
 これにより、従来対象としていたr一次性心停止」及び「不整脈による突然死等」は、「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされたものである。
 なお、今回の改正においては、認定基準の対象疾病の範囲に変更はない。

 長期間にわたる疲労の蓄積
(1)  脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、これまで、発症前1週間以内を中心とする発症に近接した時期における負荷を重視してきたが、近年の医学研究等により、長期間にわたる疲労の蓄積も発症に影響するものと考えられるようになってきたことから、今回の改正において、「異常な出来事」及び「短期間の過重業務」のほか、長期間にわたる疲労の蓄積についても、業務による明らかな過重負荷として考慮することとしたこと。
(2)  長期間にわたる疲労の蓄積については、発症前6か月間における就労実態を検討することで評価できるとされたことから、その評価期間を発症前おおむね6か月間としたこと。
(3)  業務の過重性の評価に当たって、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目して、業務と発症との関連性を検討する際の労働時間の評価の目安を示したこと。

 負荷要因の明確化
 業務の過重性の評価については、38号通達において、「業務量(労働時間、労働密度)、業務内容(作業形態、業務の難易度、責任の軽重など)、作業環境(暑熱、寒冷など)、発症前の身体の状況等を十分調査の上総合的に判断する必要がある。」とされていたが、具体的な負荷要因までは示されていなかった。
 今回の改正において、客観的かつ合理的に業務の過重性を評価するために、その負荷要因と要因ごとの負荷の程度を評価する視点を明示したこと。
 
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第3 運用上の留意点
 対象疾病について
 1063号通達では、医学的に過重負荷に関連して発症すると考えられる脳・心臓疾患を対象疾病に掲げ、取り扱う疾病の範囲を明確にしている。
 このことから、対象疾病以外の脳・心臓疾患については、一般的に過重負荷に関連して発症するとは考え難いが、過重負荷に関連して発症したとして請求された事案については、本省補償課に相談すること。


 異常な出来事について
 1063号通達の第3の(1)の「異常な出来事」については、従来の取扱いに変更はない。
 すなわち、生体が「極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態」、「緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態」又は「急激で著しい作業環境の変化」に遭遇すると、急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし、血管病変等をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得ることがあるとの医学的知見に基づき、これらを「異常な出来事」として認定要件に掲げたものである。
 したがって、遭遇した出来事が「異常な出来事」と認められるか否かは、当該出来事によって急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし、その結果、脳・心臓疾患を発症したことが医学的にみて妥当か否かによることとなる。
 具体的には、業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合等のほか、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入り等が考えられるが、これらの出来事の過重性の評価に当たっては、事故の大きさ、被害・加害の程度、恐怖感・異常性の程度、作業環境の変化の程度等について検討し、客観的かつ総合的に判断すること。

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 短期間の過重業務について
(1)  評価期間
 短期間の過重業務の評価期間は、発症前おおむね1週間とされたが、これは、発症に近接した時期の業務の過重性を評価する期間として、医学的に妥当であるとされたことによるものである。
(2)  発症前1週間より前の業務の取扱い
 38号通達では、業務の過重性の評価に当たって、発症前1週間より前の業務については、この業務だけで血管病変等の急激で著しい増悪に関連したとは判断し難いとして、発症前1週間以内の業務が日常業務を相当程度超える場合には、発症前1週間より前の業務を含めて総合的に判断することとされていたが、今回の改正において、長期間にわたる疲労の蓄積が評価の対象に加えられたことに伴い、発症前1週間より前の業務については、長期間の負荷として評価することとする。
 しかしながら、長期間の過重業務の評価期間が、発症前1か月間以上の期間を対象とすることから、例えば、発症前2週間以内といった発症前1か月間より相当短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低いために、長期間の過重業務とは認められない場合がある。このような場合には、発症前1週間を含めた当該期間に就労した業務の過重性を評価し、それが特に過重な業務と認められるときは、1063号通達の第3の(2)の認定要件を満たすものとして取り扱って差し支えない。
(3)  質的に著しく異なる業務の取扱い
 業務の過重性の評価に当たって、日常業務と質的に著しく異なる業務に就労した場合については、医学的な評価を特に重視し判断することとする。
 なお、日常業務と質的に著しく異なる業務とは、当該労働者が本来行うべき業務であっても、通常行うことがまれな異質の業務をいうものであり、例えば、事務職の労働者が激しい肉体労働を行うことにより、日々の業務を超える身体的、精神的負荷を受けたと認められる場合がこれに該当する。
(4)  業務の過重性の総合評価
 業務の過重性の評価は、発症した当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる同僚労働者又は同種労働者(以下「同僚等」という。)にとっても、特に過重であるか否かにより判断することとされた。
 これは、日常業務の遂行に支障のある者は別として、発症した労働者と同じような業務に就労する労働者のうち、年齢、経験等が当該労働者により近い者にとっても、業務が特に過重であったか否かによって業務の過重性を評価することにより、当該労働者に及ぼした業務による影響を客観的かつ合理的に評価しようとするものである。
 業務の過重性の評価は、1063号通達で示された労働時間、不規則な勤務等の負荷要因により判断することとなるが、就労実態は多種多様であることから、これらの負荷要因以外の要因であって、医学的にみてそれによる身体的、精神的負荷が特に過重と認められるものがある場合は、これを含め、客観的かつ総合的に判断することとする。
 また、複数の負荷要因が認められる場合は、それぞれの要因について調査し、業務の過重性を総合的に判断することが必要である。
 なお、負荷要因のうち、交替制勤務・深夜勤務は、直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではないとされていることから、交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。
 また、精神的緊張を伴う業務として1063号通達の別紙に掲げられていない業務又は出来事による負荷は、発症との関連性において、日常生活で受ける負荷の範囲内と評価されるものである。

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 長期間の過重業務について
(1)  評価期間
 長期間の過重業務の評価期間は、発症前おおむね6か月間とされたが、これは、疲労の蓄積を評価する期間として発症前6か月間とすることが医学的に妥当であるとされていることによるものである。
 なお、発症前おおむね6か月間を評価するに当たっては、1か月間を30日として計算することとする。
(2)  発症前おおむね6か月より前の業務の取扱い
 発症前おおむね6か月より前の業務については、発症から遡るほど業務以外の諸々の要因が発症に関わり合うとされていることから、業務の過重性を評価するに当たって付加的要因として考慮することとされたものである。このことから、タイムカード、作業日報、業務報告書等の客観的資料により、発症前6か月より前から継続している特に身体的、精神的負荷が認められる場合に、これを付加的に考慮することとする。
(3)  業務の過重性の総合評価
 労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられること及び1063号通達で労働時間の評価の目安が示されたことから、業務の過重性の評価に当たっては、まず、労働時間(時間外労働時間)について検討した上で、労働時間以外の負荷要因の評価と併せて判断することとする。
 なお、業務の過重性の客観的な評価及び労働時間以外の負荷要因の評価については、前記3の(4)の考え方と同様である。
 1063号通達で示された労働時間の評価の目安は、長時間労働及びそれによる睡眠不足から生ずる疲労の蓄積と脳・心臓疾患の発症との関連性に係る医学的知見に基づき、1週40時間(1日8時間)を一定時間超える時間外労働が1か月間継続した場合を想定して算出されたものである。
 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、疲労の蓄積が生じないとされていることから、業務と発症との関連性が弱いと評価できるとされたものであり、一般的にこの時間外労働のみから、特に過重な業務に就労したとみることは困難である。
 したがって、このような労働時間の実態にあって、業務起因性が認められるためには、労働時間以外の負荷要因による身体的、精神的負荷が特に過重と認められるか否かが重要となるものである。
 なお、発症前1か月間ないし6か月間とは、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいう。
 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされたが、就労実態は多種多様であることから、このことをもって、直ちに、特に過重な業務に就労したと判断することが適切ではない場合もあり、このような場合には、時間外労働に加えて、それ以外の負荷要因が認められる場合に、特に過重な業務に就労したとするものである。
 また、このような時間外労働に就労したと認められる場合であっても、例えば、労働基準法第41条第3号の監視又は断続的労働に相当する業務、すなわち、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない場合や作業自体が本来間歇的に行われるもので、休憩時間は少ないが手待時間が多い場合等、労働密度が特に低いと認められるものについては、直ちに業務と発症との関連性が強いと評価することは適切ではないことに留意する必要がある。
 なお、発症前2か月間ないし6か月間とは、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいう。
 労働時間の実態がウとエの間の場合には、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとされていることから、時間外労働時間が長くなるほど、それと併せて評価することとなる労働時間以外の負荷要因の寄与する度合いは相対的に低くなるものである。
 過重性の評価に当たっては、次の手順によることとする。
@  発症前6か月間のうち、まず、発症前1か月間の時間外労働時間数を算出し、次に発症前2か月間、さらに発症前3か月間と順次期間を拡げ、発症前6か月間までの6通りの時間外労働時間数を算出する。
A  @で算出した時間外労働時間数の1か月当たりの時間数が最大となる期間を総合評価の対象とし、当該期間の1か月当たりの時間数を1063号通達の第4の2の(3)のエの(イ)に当てはめて検討した上で、当該期間における労働時間以外の負荷要因の評価と併せて業務の過重性を判断する。
 なお、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる最少の期間をもって業務の過重性が評価できる場合は、その期間だけで判断して差し支えない。
 時間外労働時間の算出に当たっては、タイムカードをはじめ、業務日報、事業場の施錠記録等の客観的資料のほか、脳・心臓疾患を発症した労働者、同僚等の関係者からの聴取り等により、その実態を可能な限り詳細に把握すること。
 なお、日々の労働時間の記録がない場合又は時間外労働時間の算出の仕方について疑義がある場合は、当分の間、関係資料を添えて本省補償課に相談すること。

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 リスクファクターの評価
 脳・心臓疾患は、主に加齢、食生活等の日常生活による諸要因等の負荷により、長い年月の生活の営みの中で極めて徐々に血管病変等が形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するもので、その発症には、高血圧、飲酒、喫煙、高脂血症、肥満、糖尿病等のリスクファクターの関与が指摘されており、特に多数のリスクファクターを有する者は、発症のリスクが極めて高いとされている。
 このため、業務起因性の判断に当たっては、脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を定期健康診断結果や既往歴等によって把握し、リスクファクター及び基礎疾患の状態、程度を十分検討する必要があるが、認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性が認められるものである。

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